「ワインの魅力を多くの人に伝える」というミッションを掲げ、一号店「VINOSITY」を神田にオープン。たちまちワインブームの火付け役となったシャルパンテ代表 藤森真氏。「こぼれスパークリングワイン」などのこれまでの常識を覆すユニークなメニューづくり、深い知識と確かな経験に裏打ちされたワインのセレクトと食事。“本物”をもっと気軽に、身近に、日常的に楽しんでほしい。そんな想いから、飲食店経営にとどまらず、ワインショップやワインスクールまで経営する。ワインバルなんて一軒もなかった神田の街で、またたくまに中心的存在となった繁盛店の裏には、高度な教育環境、考え抜かれた商品開発とオペレーションの仕組みがあった。より多くの人に、ワインの魅力を伝えていくため、FC展開に乗り出した同社代表の藤森氏に、同社の強みと今後の戦略を聞いた。
VINOSITYについて
—まずシャルパンテ創業の経緯をお聞かせいただけますか。
藤森真氏(以下、藤森) 2010年10月に会社を設立しました。物件がちょうど見つかったので、法人設立してから、物件をおさえて出店準備をして、翌年1月、神田にVINOSITY本店(以下、本店)をオープンさせました。
—“ワイン居酒屋”という構想は以前からお考えだったんですか。
そうでもないですね。神田という場所でやるには、「何をどうやるのが一番いいのか」ということを考えて「ワイン居酒屋」というコンセプトになりました。創業時ですし、できることが限られていたというのもあります。もちろんワインに関連したことをやろうとは考えていましたけどね。
どういう価格帯でやるのか、そもそも最初恵比寿、渋谷、麻布十番とかを探してたんだけど。ワイン飲む人たくさんいて楽じゃないですか。でも家賃が高くて、無理だねってなって。事業計画を立てて、細かく数値化していたんですが、その数字を見ていると、やっぱり家賃って固定費だから、その比率をどこまでおさえるかっていうがすごく重要になってくるんですよね。ちょうど2012年に新生銀行が発表した「サラリーマンのお小遣い調査」という白書で、サラリーマンの一回の飲み代が一人当たり3000円を下回ったっていうニュースを耳にしたんです。神田も単価はそれくらいですよね。まわりのお店を見ても、客単価2000円前後が多かったですね。神田で単価5000円じゃやっていけないなと思ったんです。それで、もっとカジュアルなワイン居酒屋にしようと決めました。当時は、このあたりでワインを飲んでいる人もいなかったですし、「ワインバル」という言葉がなかった。当時は、神田にワインバルみたいな業態の店が一軒もなくて、「よくこんなところでやるな」って言われていましたが、今はものすごく増えましたね。
—そうだったんですね。それから、2号店となるVINOSITY magisを同じ年に出店されていますね。
そうですね。その年の10月にオープンしました。本店のお客様から「予約がとれない、なかなか入れない」というお声をいただいていたので、お断りしていたお客様を受け入れる場所としてVINOSITYmagis(以下、magis)をつくったんです。徒歩3分のところなので、競合して来客数が半分にならないように、同じワインを売る業態であっても、ワインへのアプローチを変えました。本店は入門編で「ワインの魅力を伝えよう」というお店。magisは、ワインの中でもロゼワインの魅力を中心に伝えていくお店というアプローチにしました。客層でいうと、本店は神田エリアのサラリーマンの方が圧倒的に多くて、magisは、電車をのってわざわざ来てくれる女性客が多いんです。女性比率高いのがmagisの特徴ですね。おかげさまでロゼワインもたくさんでています。ロゼの魅力もちょっと知ってもらえているかな、と思ってます。
—食事メニューはロゼに合わせて、変更されたんですか。
グランドメニューは全店統一して、おすすめのみ変えています。VINOSITYというブランドで統一性を持たせる部分と、デイリーの部分でロゼにあうメニューを中心に「おすすめメニュー」というのを考えさせていただいております。
—3店舗目がVINOSITY maxime(以下、maxime)ですね。こちらはどのように業態を変えて出店されたんですか。
maximeは商業施設というのもあって、昼から営業しなきゃいけないので、お酒を出すうちとしてはとてもやりにくい業態なんです。だから、もっと食事を中心にして、ワインを楽しめるお店にしました。いい食材を使ったり、凝ったものを出したりと、客単価は少し高くなっています。だいたい5000~7000円程度で推移させるお店にしようと、今メニューを変えたり、スタッフの教育をしたりしています。本店とmagisは、フランスでいうとブラッスリー、maximeはビストロというイメージですね。商業施設などの食事を中心に出すエリアには、maximeブランドでやっていこうと考えています。
—飲食店以外にもワインショップも経営されていますよね。
そうですね。magisをオープンさせる前に、酒飯免許をとって、ワインショップをはじめました。ワインショップの一号店「わいんすき」(現VINOSITY domi)は本店の1階の敷地を利用してはじめました。VINOSITYは、「ワイン好き」とか「ワイン中毒症」という意味のラテン語なんです。よく「ワインの街」って思っている人がいるんですが、スペル違うし。(笑)みなさん言葉の意味がわからないっていうので、「わいんすき」という名前にしたんです。「アル中」だと言葉が強すぎるので。マーチエキュート神田万世橋の「VINOSITY domi」は、お家で飲むワイン好きになってもらおうという意味を込めています。domiは、domestic、つまりお家でという意味です。現在は、VINOSITY自体の知名度が上がってきたので、どちらもワインショップのブランドはVINOSITY domiという店名に統一しました。今後もこの店名で展開していく予定です。
VINOSITYの強みとFC展開の仕組み
今回FC展開をやっていく上では、本店と同じ形でできるようにしてもらうのが理想ですね。居抜きなら居抜きで、既存店を看板変えて、業態を変えてもらうというイメージです。
—本店をパッケージ化してFC展開していくということですね。FC展開していくにおいて御社の強みはどこにあるとお考えですか。
商品開発、業態開発ですね。技術を持たない人でも、高いレベルのものを提供できる仕組みがあるのが強みですね。
—具体的にどういった仕組みがあるんですか。
まずセントラルキッチンですね。昨年銀座にオープンしたcenaclum(チェナクルーム)という高級業態のレストランがあるんですが、そこをテストキッチン、開発本部として稼働させます。cenaclumのシェフは、パリの一つ星レストラン「ステラマリス」でスーシェフをつとめていました。支配人もサービスコンクール日本一という経歴の持ち主です。もう一人グランシェフがいるんですが、彼は「シェ松尾」とか、「ひらまつ」などのフレンチレストランでシェフやっていました。
—とてもハイレベルな方々が集結していますね。
技術も経験もキャリアもある人たちが会社にいて、商品開発のトップを担っています。
—セントラルキッチンで、各店舗の料理を作っていくということですか。
そうしていきたいと思っています。例えば、田舎風パテなんかは、レシピだけでは、その通りに作れないんですよ。ですが、パテで店のレベルが分かるくらい、シェフの考え方や方向性がすべて出る料理でもあるんです。これまでしっかり料理の経験を積んできたか、料理に対して知識がちゃんとあるのかなどが、一口食べれば分かります。私たちはちゃんとフランス料理として、フランスのビストロで出てくるもの、もしくはそれ以上のものを提供することができると思っています。それをセントラルキッチンで再現して、各店舗で高いクオリティを保てるようにしていこうと準備しているところですね。
—メニュー開発本部とセントラルキッチンという両輪がFC展開していく際の大きな強み、肝ですね。
そうですね。高い技術を必要とするものや、手間がかかるものは、すべてうちから配送、提供していきます。そういったものをうちから全部納品してあげることで、現場では、カットして盛りつけて出すだけで済む。仕込みに時間や技術を必要としなくなるわけですから、人件費が軽くなります。人件費が高い技術者に頼らずに済むようになります。アルバイトの子たちでもできるようになる。出来れば料理が好きな子にやってほしいとは思っていますが。
—それが御社のfc展開の仕組みの肝ですね。
うちのメニューって一見難しそうにみえますけど、一人できるシェフがいたら、成り立つんですよ。本部になる人間が料理をして開発していたので、各店ではちょっと料理ができて経験がある子なら店をまわせちゃう。本店とmagisなんてアルバイトの子たちが料理長をやっていて全然まわっていたし、それくらいのレベルでいいなって思っています。それをできるようにしてあげたいですね。
そう思うようになった背景に、僕自身ソムリエやホールの人間として、今まで苦労してきた経験があります。独立する前は、大手の飲食企業にいたこともありました。そこでは、シェフが異動になったり、辞めたりでキッチンの入れ替わりが激しくて、その度に料理のクオリティが上がったり下がったりしていたんです。得意料理が違ったり、同じ料理頼まれているのに、スタイルや味が違ったりしちゃう。さんざんホールとしてふりまわされてきたので、こういう嫌だなって。やっぱり飲食店って技術のある料理人に振り回されがちなんですよね。例えば、「僕がいないと困りますよね」とか言って、給料つり上げようとするシェフとかね。そういう技術者がいなくても、高いクオリティを保ってまわせる店を作りたかったんです。
—なるほど。商品開発力とセントラルキッチンの仕組み化以外に、FCオーナーにとってのメリットはありますか。
うちのブランド力も大きなメリットだと思います。いまだにすごい件数の取材を受け続けていますし。
—ワインスクール「シャルパンテカレッジ」も魅力的ですよね。
そうですね。うちはすごい教育に力をいれている会社です。週2~3回開いている勉強会にも、参加していただけます。ただ、こちらはパッケージ外になるので、オプションとして別途相談になります。そういう教育の仕組みが整っているっていうのは大きいと思います。まずワインを勉強させようと思っても、どこから教えていいか分からない、勉強したい子たちもどこから勉強していいかわからいない。それを体系的に教えられる場所とノウハウを持っている、っていうは大きなメリットになると思います。
—確かにそうですね。ワインショップはどのような位置づけになりますか。
うちから各店舗への卸もします。ワインについては、僕が直接フランスから輸入しているものもありますし、うちならではのリストといえますね。
FC展開する理由とその思い
—そもそもFC展開をしていこうと思ったきっかけは。
そこはとても重要ですね。シャルパンテは、もともと「ワインの魅力を多くの人に伝えていこう」というのを一番のテーマとしてスタートした会社です。それを広く人に伝えていくにはやっぱり店舗数が必要になってくる。ただワインを飲む人を増やしていくのではなくて、それを理解して売っていける人を増やしていくべきだと思っています。だから、「教育」なんですよね。単にワインを注いだらお金をもらえるわけじゃなくて、このワインにはどんなストーリーがあって、どういう温度帯でどんな食事と合わせたらいいのか、そういったシチュエーションまでを理解して提案することが、エンドユーザーに対してワインの魅力を伝える第一歩になります。その仲間を募集したい、というのが一番の理由ですね。
—どのようなFCオーナーを探されていますか
意欲がある方。飲食に愛がある方がいいかな。
—何店舗以上経営しているとか、飲食経験何年以上とか基準はありますか
ないですね。面談してみて、フィーリングが合えば一緒にやっていきたいですね。お互いにウィンウィンになる関係性を築こうと思ってくれる人がいいですね。逆に言うと、うちに全部おんぶにだっこじゃ困りますね。うちの仕組みを利用してやろうと思っている人たちがほしいですね。うちの教育の仕組みとかワイン学べる環境っていうのは、オーナーさんの他の系列店でも生かせる可能性もあると思います。
—目指す店舗数とかは重要ではなくて、フィーリングあって、想いを汲んで一緒にやっていける人がいれば増やしていくという。
そうですね。うちも最初なので、FCの条件はすごくよくしています。ロイヤリティ3%。そういうものも含めて、最初だけははじめましてなので、そういう形にして、今後どんどん規模が大きくなって、安定してきたら、条件はそんな欲はしないだろうし。まずは一緒にやろうと思ってくれる方に、負担をかけずに。絶対最初成功してい欲しいから。一発目こけられたら困るでしょ。うちとしても全力でサポートするし。ワインは全然知らなくていいです。うちもお酒を飲めない子たちがお酒うっていますからね。ワインを売るのって別に詳しいから売れるわけじゃないんですよ。結局は
—FC展開をする対象エリアは。
都内と名古屋ですね。来年4月に名古屋にお店をオープンさせるので、そこを拠点にします。名古屋はフランチャイズに強い方たくさんいるので、やっていただきたいと思っています。
—シャルパンテとしてFC店舗とどのように関わっていく予定ですか。
まずは一ヶ月間、本店に研修に入ってもらうことからはじまります。人数は、2〜3人。店舗オープン時は、僕も現場に行くし、そこで伝えられることはどんどん伝えていきます。僕は立ち上げだけでも、過去100店舗以上やってきた実績があります。田崎真也さんのところや、スティルフーズでもあらゆるお店の立ち上げ、運営などマネージメントしてきましたから。
—オープン時に現場に入ってご指導されるんですね。その後のフォローは。
月に1~2回お店を見てまわります。僕自身も行きますし、シニアソムリエ3人いるので、彼らも行きます。そこで気づいたことがあれば、調整していった、特別に必要と判断したときは、本部から人を派遣して立て直しのサポートをします。
—心強いですね。最後にFCオーナーへのメッセージをお願いします。
みなさんと一緒に成功していきたいと思っています。そのためには全力を尽くします。ダメだったらさよならっていうことはしません。ワインの魅力を多くの人に伝えていく、という会社のテーマのもとにやっているので、手抜きはしません。熱意を持っていただける方と一緒にやっていきたいですね。
1972年、東京都板橋区出身。株式会社シャルパンテ代表取締役。専門学校のホテル学科卒業後、フレンチレストランやバー、ホテルでバーテンダーとして勤務。その後、日本を代表するソムリエ・田崎真也氏の下で、焼酎と豚料理の店「眞平」の初代店長となる。株式会社スティルフーズで、イタリアンレストランの支配人、多店舗管理、運営を経験した後、独立。現在は、欧風ワイン居酒屋「VINOSITY」「VINOSITY magis」「VINOSITY maxime」の3ブランドを展開。酒販店「VINOSITY domi」、ワインスクール「シャルパンテカレッジ」運営のほか、飲食店プロデュースも多数てがける。
主な資格;シニアソムリエ、利酒師、ビアアドバイザー、スピリッツアドバイザー、ドイツワインケナー、フードアナリスト等